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2012年3月 8日 (木)

「『だましだまし』やるという姿勢は大事なことだよ」

前回の続き。では「たくみにゆらぐ」というのは、どういうことなのか。

生物学者の福岡伸一さんの著書に『動的平衡』という本がある。「生命とは動的平衡にある流れである」というもので、生物は常に変化し、自らを更新することで「細胞の中に必然的に溜まるゴミ=エントロピーを捨て続け」、現状を保っていくというのが「動的平衡」という考え方である。

この考え方は、鴨長明『方丈記』の「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし」に通じる。

この常に変化している状態、常に更新している状態のことこそ、きっと内田樹氏が言う「たくみにゆらぐ」ことなのではないか。

宮崎駿さんによる『風の谷のナウシカ』の最後の方(第7巻)で、ナウシカも次のように語っている。

「生きることは変わることだ。王蟲も粘菌も草木も人間も変わっていくだろう。腐海も共に生きるだろう」

ボクが旧来思っていた「大人の定義」では、「けっして変わらないもの」が大人の条件だった。大人というものは、自分の意見をころころ変えるものではない、というような風潮は確かにある。でも「コロコロ変える」のではなく、「たくみに変える」ということである。

すこし話は飛ぶ。

日経ビジネスオンラインにアップされていた脳学者の養老孟司さんと、建築家の隈研吾さんとの『「ともだおれ」思想が日本を救う』(2月10日)という対談で2人は、東日本大震災の復興について次のように語っている。

養老「一気に更新しようというのではなく、『だましだまし』やるという姿勢は大事なことだよ」

隈 「『だましだまし』の気持ちで復興を地道にやっていけば、その過程で新しいテクノロジーだって入り込む余地もできるし、一歩ずつゆっくり補強されていく。そういう方法論でやっていかなきゃいけないと思うんですけど」

東北の復興にからめて、この2人は「一気に変える」のではなく、「だましだまし」変えるのが大事だと説く。

杉並区の元和田中学校長の藤原和博氏は、「修正」という言葉を使う。毎日新聞夕刊(2/29)のインタビューで、次のように語っている。

「(今の教育界や、日本全体を覆っている)正解主義は『修正主義』に。つまり『こうするのが正しい』とたった一つの正解があると信じ込む正解主義から、とにかくやってみてから修正していけばいいという考え方に転換する」

とにかく手を付けてみる。一気に正解に到達しようと考えるのではなく、その都度、修正を加えていき、目的地を見つければいいのではないか。

「だましだまし」「修正主義」。

いずれも「たくみにゆらぐ」という状態とつながっているような気がする。

さらに話はずれてしまうが、藤原氏は、目的地に到達することが全てではないとも言う。

「ある状態になることが幸福だと思い込んでいるけど、実はそうじゃないんじゃないか。向こうに山の頂が見えていて、そこに向かって登っていること自体、今の瞬間から思いが実現していく成長みたいなものが幸福ではないか」

「修正」という過程こそに「生きる幸せ」があるのではないか…。深い。

これは、平川克美さんが近著『小商いのすすめ』で指摘していたこととも、ほぼ同じくする。

「拡大より継続を。短期的な利益よりは現場のひとりひとりが労働の意味や喜びを噛み占めることのできる職場をつくること。それが生きる誇りにつながること」

「利益を生む」という会社の目的よりも、その継続の過程でかみしめる『労働の意味や喜び』ことが大事なことではないのか、という指摘である。

つまり、何のために「たくみにゆらぐ」のか、と問う場合、その「ゆらぐ」行為こそが「生きること」なのではないのか。繰り返すが、まさに落語の世界が表現したいことが、これだったりする。

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