「努力したのであれば、すぐに何らかの結果が欲しいのが日本人ではないでしょうか」
先日、御手洗瑞子さんの『ブータン、これでいいのだ』という本を読んだ。御手洗さんは、ブータンで1年間政府職員として働いた経験を持つ。去年若き国王が来日したり、「国民総幸福(GNH)」なんてもので最近、何かと取り上げることのおおいブータン王国。御手洗さんが、働きながら見たその国の様子が書いてあって非常に興味深かった。
ブータンの良さというと、この本を読むまでは、どこか貧しい国の「清貧」の良さに違いないと思ったりしていた。しかし、実際は違う。インドと中国という2つの大国に挟まれた小国としての「リアリズム」のなか、国民は生活している。携帯電話もあれば、i-Padなどもあり決して貧しいわけではない。チベット仏教の精神を大事にしながら、おおらかに生活している。
「日々ブータンで仕事をし、またこの土地に暮らしていて感じるのは、そもそもブータンの人々は『人間の力では(また自分の力では)がんばってみてもどうにもできない』と思っている範囲が、日本人である私たち以上に大きいのではないかということ。自然の力という意味だけでなく、運や縁、運命なども含めて、『まあ、なるようになるよ』というスタンスが強いように感じます」(P182)
「輪廻転生を信じ、いつもうっすらと来世を意識し、老後には毎日来世のために祈る。ブータンの人にとって、『今の人生』のとらえ方が、私たち日本人とは違うのだろうなと感じます。『現世が全て』と考えていたら、人生が思い通りにいかない時、もう取り返しがつかない気がして、つらくなる。反対に『現世がすべてではない』と信じれば、多少うまくいかにこと、思い通りにいかないことがあっても、『うーん、まぁいっか。次の人生がうまくいくといいな』と割り切れる」(P210)
先日亡くなった評論家の吉本隆明さんの『吉本隆明が語る親鸞』という本に、親鸞の持つ「来世」「他力本願」の考えが興味深く書かれていたが、その親鸞の思想とブータンの仏教が、みごとにつながっている感じなのだ。
翻って、そのかつて親鸞という思想家を生んだ日本という国では、どうなのか。たまたまだが、全くブータンとは対極となるような状況を、藤原和博さんが著書『坂の上の坂』の中で指摘していて、非常に興味深い。
「キリスト教をはじめ、なぜ世界の宗教が日本に浸透しなかったのか。ひとつの仮説があります。それは、日本人が現世御利益を求めてしまうからです。すぐに結果を求めてしまう。『天国では幸せになれる』などと言われてもピンと来ない。努力したのであれば、すぐに何かの結果が欲しいのが日本人ではないでしょうか」(P80)
藤原氏は、日本では「現世御利益」という宗教が信じられているとも言っています。
「では、現世御利益の宗教とは、具体的にはどんな教義を持つものでしょうか。日本を席巻したのは、『頑張る教』だったのではないかと思います。例えば、勉強して頑張れば、いい学校や大学に入れ、いい会社の社員になって、課長くらいなればみな車や家が買える。要するに『いい子』を貫いて生きれば、きっと幸福は待っている、ということ」(P80)
ブータンや親鸞の思想とは、まさに対極ともいえる状況が日本にはあるよう。短絡的に「結果、結果」という現世御利益を求め過ぎていることが、今の日本の閉塞感につながっているのでは、とブータンの人たちの生活を知ると思えてくる。
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