「目先の勝利だけに目を奪われることなく、子供の成長を長い目で見られるかどうかだ」
きのうの少年野球の続きの話である。
きのうも紹介した雑誌『サッカー批評』(57号)の『子供がサッカーを嫌いになる日』には、ベンチで怒鳴ってばかりいる指導者のことが書かれている。しかし、こうした指導者の裏側には、結果ばかりを求める親の問題があることも指摘されている。あまりにも勝敗や数字ばかりにこだわり、一喜一憂する親たちの追及を受けた結果として、指導者も子供のことを考えるよりも結果を追い求めてしまうようなのである。
サッカーライターの鈴木康浩さんは、次のように書いている。
「ジュニア世代に指導者に大事なことは、目先の勝利だけに目を奪われることなく、子供の成長を長い目で見られるかどうかだ。子供が将来プロになる、ならないに関係なく、サッカーから学んだことを武器に、たくましく社会を生き抜ける人間に育てられるか、どうかが、育成に携わる指導者の本当の勝負ではないだろうか」
親や指導者が「目先の勝利だけ」に目を奪われた結果として、子供がロボットのようになり、成長を阻害しているというのだ。もっと「長い目」で見守ることが必要という当たり前の話でもある。
「目先の勝利」。目先のことばかりに踊り、長い目で物事をみられないのは、少年スポーツの世界だけではなく、政治を含めた今の日本社会での強い風潮なのであろう。その辺の言葉を並べてみたい。
社会学者の宮台真司さんは、対談集『増税は誰のためか』の中で、政治家について次のように話している。
「政治家は、選挙を考えますよね。短期・長期を分離して考えた時、『長期的にはいいけれど、短期的には苦しむ』という選択肢よりも、『長期的には苦しむけれど、短期的にはいい』という選択肢を提示したほうが、票はとれますよね。『長期的に渡って利益になるサスティナブル(持続可能)な戦略は何なのか』ということではなくて、『選挙に通るための政策は何か』という方向にバイアスがかかることが多いのではないでしょうか」(P154)
こうした短期的な結果を求める風潮については、以前の当ブログ(4/24)でも書いている。こうした風潮は、どこから来るのだろうか。思想家の内田樹さんは、ツイッター(7/25)で次のように書いている。
「政権を委ねてから成果が出るまでのタイムラグ(ものによっては5年10年またねばなりません)が耐えられない。レジでお金を出したら、『お品物は5年後に配達されます』と言われた買い物客のようなフラストレーションを感じます。『すぐに結果を出せ』という定型句は『お客さま』の苛立ちなのです」
この指摘から考えると、どうも日本国民総「お客さま」現象が起きているようである。
きのうも取り上げた湯浅誠さんの『ヒーローを待っていても世界は変わらない』にも、こんな指摘がある。
「十全に機能していないから一気に取り替えてしまおう、バッサリやってしまおうという心理には、焦りを感じます。それは一つひとつ積み上げながら改善していくことを『待ってられない』という焦りです。注文したときに感じる消費者の焦り、不具合が生じたら手直しをするより、買い換えた方が手っ取り早いという消費社会の焦りに通じるものです」
「そこに飛躍が生まれます。一商品とは異なる政治・社会システムを、一商品と同じ見方で見る飛躍、そこで翻弄される人々の生命と暮らしを軽視する飛躍です。私はそれを『ガラガラポン欲求』と読んできました。待てない消費者心理とても言うべきものです」(P66)
このブログにも、何回か書いてきたと思うが、すっかり隅々まで行き渡った「消費社会」に根付く「消費者心理」。全てのものを「消費活動」と同じに捉える風潮は、相当やっかいなものになっている気がする。
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