「自分がコントロールできることとできないことを分けて考えなければいけません」
昨年末に、野球の松井秀喜選手が引退を表明した。その引退について扱っていた朝日新聞(2012年12月29日)の記事の中で紹介されていた彼のこんなコメントを興味深く読んだ。
「自分がコントロールできることと、出来ないことを分けて、出来ないことに関心を持たないことですよ」
そのコラムでは、その例のひとつとして、マスメディアに何かを書かれることは、自分ではコントロールできるものではないので、そうしたことには関心そのものを持たないようにしているということが書かれていた。ちょっと興味を持ったフレーズだったので、それから松井選手の本を読んでみて、それに関連するフレーズを拾ってみた。
2010年、ヤンキースを去るタイミングで出版した著書『信念を貫く』には、次のように書いている。
「自分がコントロールできることとできないことを分けて考えなければいけません。そして、コントロールできることについては、結果につなげるべく努力をします」
「例えば、打席に入ってからは自分でコントロールできます。相手投手のどういうボールを待って、どう仕留めていくか。それは基本的に僕自身に決定権があります。いいバッティングができるよう、心も体もコントロールすべく努力できます。
でも、試合に出る、出ないを判断するのは監督であり、コーチです。僕に決定権はありませんから、これはもう仕方がないことです。割り切るしかありません」 (P56)
また左手を骨折した後の2007年に出版した著書『不動心』の中でも、いくつか「コントロール」という言葉を見つけることができる。
「コントロールできないものに気を病むのではなく、できることを精一杯やろう」 (P78)
「絶対にコントロール不能なもの。それは人の心です。人の気持ちをコントロールしようとするほど、無意味なことはありません。例えば高い地位にいれば、色々な人に命令することができます。多くの人は命令に従うでしょう。しかし、行動で従ったからといって、気持ちまで従っているかどうかは分かりません。人の心はコントロールできないと思います。でも、コントロールはできずとも、動かすことはできるのではないかと思っています」 (P78)
「例えば、スタンドからのブーイングがあります。観客が試合を見てどう思うかはコントロールできません。
しかし、彼らの心を動かすことはできます。全力でプレーをし、結果を残していれば、ブーイングは拍手に変わります。また逆に、もしも手を抜いてプレーしたら、拍手がブーイングに変わります」 (P79)
さらに面白いのは、松井選手が野球についてだけでなく、「恋愛」についても、そうした考えを当てはめて語っていたりする。
「恋愛においてもいつものように、自分で解決できることとできないことを分けて考えるようにしています。つまり、自分が考えたり何かをしたりすることで解決できる可能性があるのかどうかを区別するのです」
「なんとかなるものであれば、解決しようと知恵も絞りますが、自分の力でどうにもならないものについては、あれこれ考えません。そうしたことをくよくよ考えるのは時間と労力の無駄だし、精神的にもあまりよいことではないと思うのです」 (P169)
コントロールできるものと、できないものをはっきり分け、できるものに対して徹底的に考え、努力する。その結果として、周囲の人の心を「コントロールする」のではなく、「動かす」。そして、そのことを書いている本の名前が『不動心』というのも興味深かったりする。
別にジャイアンツファンではないが、松井選手が監督としての「不動心」をグランドで見せてくれる日を楽しみに待ちたい。
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