「何も変えずにおくために、人々は全てを変えたがる」
今日の朝日新聞夕刊(4月23日)では、『なぜ今 憲法96条改正論?』と題する特集が組まれていた。この記事の中では、社会学者の小熊英二さんによる次の言葉を載せている。
「何かを変えたいという以上のことはないだろう」
「具体的には変わらないけれど、何かを変えた気分は共有できるもの」
「でも、96条を変えれば閉塞感が解消できるとは思えないし、『3年ごとに憲法を変える国』になれば社会は今より不安定になる」
まずは何かを変えることで、閉塞感を打開しようとする。ということなのだろうか。
そこで、これまでメモった「変わる」にまつわる言葉を、ざっと見て気がついたものだけでも並べてみようと思う。
思想家の内田樹さんは、雑誌『SIGHT』(1月号)で、今の政治について揶揄を込め、次のように語っている。
「これまでなら保守と革新が対立軸だったんだけども、今の政党は全部『変化』だからさ。自民党が一番過激に体制の変換を求めているんだよ」 (P123)
まずは、変える。変革、チェンジ、それでもだめなら、リアルチェンジ。海の向こうを含め、政治では、とにかく「変える」「変化」ばやりなのである。
社会学者の開沼博さんは、著書『フクシマの正義』で、次のように語る。
「今求められているのは、短絡的に作られた『敵』でも、薄っぺらい『希望』でもない。なぜ自分が、自分たちの生きる社会が、これまでその『悪』とされるものを生み出し温存してきてしまったのか、そして、これからいかに自分の中の『悪』と向き合うのか、冷静に考えることに他ならない。『変わる変わる詐欺』を繰り返さないために」 (P39)
ここでの「悪」と、上記の「閉塞感」は繋がっている。それを排除するために「変わる」を連呼するが、そんなことではなくならない。だから「変わる変わる詐欺」なんだろう。ちなみに、この開沼さんの本の副題は「“日本の変わらなさ”との闘い」。「変わる、変わる」と連呼しながらも、結局、震災や原発事故が起きても、政権交代が起きても、その実は何も変わっていない、ということなのだろう。
フランス文学者の蓮見重彦さんの指摘を思い出す。雑誌『中央公論』(2011年1月号)から。
「私は『何も変えずにおくために、人々は全てを変えたがる』というウォーラステインの言葉を思い出しました」
分野は移る。棋士の羽生善治さんは、著書『直観力』で次のように書いている。
「『変革が大事』『変化を求める』といったことが喧伝される。
しかし、いきなり大転換してしまったら、たいていはうまくいかない。時間をかけ少しずつ、少しずつ歩幅を変えていきながら、たとえばそれが二年三年という時間を経たときに、全然違うかたち、違うものになっているというのが、一番スムーズでリスクも少ないではないかと思うのだ。大変革は必要ではない」 (P189)
当然、将棋の世界での話だが、ほかにも通じる指摘。かなり説得力がある。
それから連想した言葉。作家の大野更紗さん。書籍『増税は誰のためか』から。
「はっきり言って、社会の改良のプロセスは、斬新的なものであって、一発逆転はできません。地味ですし、労力も手間もかかります。しかしその丁寧な徒労の積み重ねこそが、これからの日本社会が本気でやらねばならないことであることは、確かです」 (P237)
先日、紹介した建築家の隈研吾さんの指摘も思い出す。(4月15日のブログ)古くなったら、一気に立て替えるコンクリート建築ではなく、少しずつちょこちょこ手直しする木造建築のやり方。家を建て替えれば、生活のすべてがバラ色に変わるわけではないのである。当たり前だ。
もうひとつ。活動家の湯浅誠さんが、2010年に内閣府参与を辞職した際に残した言葉を記しておく。 『内閣府参与辞職にともなう経緯説明と意見表明』から。
「現実はどこにいようと『隅(コーナー)のないオセロ』なのだと思います。一気にどんとひっくり返せるような魔法はなく、一個ずつ地道に反転させていくしかない。現在、私はそう思っています」
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