「現代はあっという間に死者を忘れる。まるで忘れることが社会を前に進める唯一の道であるかのように」
今年最初のブログ(1月8日)では、「歴史の忘却」にまつわる言葉を紹介した。たまたま今週、いろんな場所で「忘却」についての言葉を見かけたので、新たに並べてみたい。
まずは政治学者の中島岳志さんさんが毎日新聞(4月7日)の書評欄で、『想像ラジオ』(著・いとうせいこう)について書いていた文章から。
「現代はあっという間に死者を忘れる。まるで忘れることが社会を前に進める唯一の道であるかのように。何もなかったように事態にフタをして、次に進もうとする」
この書評はとても良い文章で、『想像ラジオ』に対する書評締めくくりのフレーズも印象的。「忘却」とは直接、関係ないけど。
「フィクションは、リアルを越えたリアルに迫る。荒唐無稽なシチュエーションこそが、現実以上の現実をあぶり出す。これが文学の力だ」
そのいとうせいこうさんによる小説『想像ラジオ』。作中に出てくる大震災で亡くなった人に対する次の言葉が、心に残る。
「亡くなった人はこの世にはいない。すぐに忘れて自分の人生を生きるべきだ。まったくそうだ。いつまでもとらわれていたら生き残った人の時間も奪われてしまう。でも、本当にそれだけが正しい道だろうか。亡くなった人の声に時間をかけて耳を傾けて悲しんで悼んで、同時に少しずつ前に行くんじゃないのか。死者と共に」 (P132)
作家の椎名誠さんも、毎日新聞夕刊(4月8日)で、震災後の「忘れやすい空気」について、次のように語っている。
「正直、こんな早く忘れるとは思わなかった。『一つになろう』『日本は強い国』というようなキャッチフレーズがしばらくあふれましたよね。かけ声だけで戦時中の国威発揚みたいだった。今は誰も気にしない交通標識になっている」
そして、椎名さんが結びで書いていた次の指摘は、上記の中島さんの言葉とも、いとうさんの小説の言葉とも重なっている。
「日本人が信じる豊かさを取り戻すには、震災を忘れるしかなかった。忘却は豊かさの代償なのかもしれませんね」
精神科医の野田正彰さんは、『<3・11後>忘却に抗して』という本の中で、次のように語っている。
「日本全体が『悲しみは忘れた方がいい」』という発想に疑いを持たない。被災地では親や我が子を亡くした人たちが、今もがれきの中で暮らしている。彼らを前に『悲しみを忘れましょう。頑張りましょう』と言えるのか。人間の精神について、あまりに鈍感ではないでしょうか」 (P100)
ジャーナリストの青木理さんも、著書『僕たちの時代』で、「忘却」について触れていた。
「『これが売れるんだ』と思った時の資本や世の中の消費のしかたが問題なんですよ。商売になると思ったら反原発まで徹底消費する。『反原発は商売になる』と思った瞬間、有象無象のインチキから悪ノリする奴までぞろぞろと出てきて、そしておそらくはどんどん忘れていくんです。忘却して、また同じようなことを繰り返す」 (P197)
椎名さんが指摘する「豊かさ」とは、資本や消費の世界での「豊かさ」に他ならない。我々はその「豊かさ」を享受する代償として「忘却」を繰り返しているのだろうか。その陰には、もっと大きな「代償」が隠れているような気がする。
最後に、立教大学総長の吉岡知哉さんが、先月に2012年度大学院学位授与式の式辞で語った言葉を載せておきたい。
「リベラルアーツは、次のような一連の問いと結びついていると言えるでしょう。世界の中における私の位置はなにか。私と私以外のものとの関係はいかなるものか。私が行っていることの意味はなにか。私は何をするために今ここにいるのか」
「東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故は、私たちが、このような問いを問うことを忘却してきたこと、あるいは、あえて問わずに来たことを明らかにしました。私たちは自由を忘却してきたのか、放棄してきたのか、あるいはそもそも私たちは自由ではなかったのか。私たちはなお、問い続けなければなりません」
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