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2013年4月22日 (月)

「枠をいちいち怖れることはないけれど、枠を壊すことを恐れてもならない。人が自由になるためにはそれが何より大事になります」

これまで「ルール」をめぐるエピソードを何回か取り上げた。昨年6月12日のブログでは、東日本大震災直後の非常時においても、既存のルールに囚われ、従ってしまう具体的な例を紹介した。

そんな例をもうひとつ。朝日新聞で連載が続いている『プロメテウスの罠』。それが書籍化された朝日新聞特別報道部『プロメテウスの罠4』を読んでいたら、震災対応での個人情報の問題を取り上げていた。 

南相馬市にある社会福祉協議会の高野和子さんは、震災直後、市内の障害者の居場所や避難先を確認しようとして、市に問い合わせても、個人情報保護法を盾にして「いえません」との回答だったという。それについて高野さんは、次のように語っている。 

「混乱の中では個人情報保護なんていっていられないはずなのに、命にかかわることだってあると思う。何とかしなければならないことなのに、忙しいのでうやむやさにされている」 (P35) 

そんな中、南相馬市の健康福祉部長、西村武義さんは、市としての判断の前に、障害者の個人情報を支援者に開示することを決断する。西村さんは、部下に面と向かって次のように言われたという。 

「部長のやっていることは、条例違反です。意義はあると思いますが、すぐに中止すべきです」 (P37) 

障害者団体が組織する日本障害フォーラムの幹事会議長の藤井克徳さんも、次のように語る。 

「ほかの市町村ではほとんど情報開示が進まなかった。こんな極限状態で、個人情報を悪用することなど考えられないのに」 (P39) 

そうした「お役所」の対応について、弁護士の岡本正さんは、次のように指摘する。 

「何か不祥事が起きたときの責任ばかり考えている。これでは住民の命を救えない」 (P49) 

ここでも、もしもの「ミス」を恐れ、住民の命よりも、ルールを守ること、何事もないことが優先される。何事もないといって、それは自分の立場に限ったもので、その陰では命という、「何事にも変えられないもの」が犠牲になっている。 

以前(2012年9月3日のブログ)に紹介したことがあるが、映画『ダークナイト ライジング』では、ゴッサムシティの市警のゴードン本部長が新人警官に対して、次のように語っていた。

「法が武器にならずに枷となって、悪人を裁くことができない悔しさ。いずれわかる時がくる」 

まさに個人情報保護の場合は、法(ルール)が枷となって、「悪人を裁くことができない」ではなく「住民の命を救うことができない」という状況になっていたのである。この映画では、ジョゼフ・ゴードン=レヴィット演じる新人警官は、最後に本部長の考えに理解を示した。南相馬市の西村部長を問い詰めたという部下も、事態のあとにはそうなっていてほしい。 

村上春樹さん新刊『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』では、主人公の多崎つくるに対して、友人の灰田文紹は次のように語っている。 

「どんなことにも必ず枠というものがあります。思考についても同じです。枠をいちいち怖れることはないけれど、枠を壊すことを恐れてもならない。人が自由になるためにはそれが何より大事になります。枠に対する敬意と憎悪。人生における重要なものごとというのは常に二義的なものです」 (P68) 

このセリフの枠というのも、ルールに置き換えられるだろう。まさに、ルールそのものに対して敬意と憎悪の両面を持っていて、そして非常時に必要があれば、そのルールを壊すことも大切なことなんだと思う。

最後にもうひとつ。この週末に公開されたスピルバーグ監督映画『リンカーン』。その中で、ダニエル・デイ=ルイス演じるリンカーン大統領は、次のように語っていた。

「コンパスは真北を示すことができるが、君の目的地と君との間にある障害物については何も知らせてくれない。もし君が真北を目指して、その結果、沼にはまってしまったら、君は良いことを誰にもしてあげられない」

こちらも深いセリフ。
コンパスはあくまでも目安・指針なのである。当然、現場での判断が大事になる。

少し話はずれるが、この映画は「これぞ政治、これぞ議会、これぞ民主主義」という内容。ぜひ「憲法96条改正」を唱える政治家の方々に観てほしい。3分の2を越えるための努力が詰まっている。憲法を改正するなら、このくらい駆け引きして改正すべき。その前に、まずなくすべきは、「枠」「枷」そのものの党議拘束だろうけど。

 

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