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2013年5月 7日 (火)

「勝手なことをする人が少なすぎますよね。いま世の中はどんどん窮屈になっていますが、従順になりすぎて自分で首を絞めているところもあると思います」

前回のブログ(5月2日)では、世の中から「辺境」が奪われていることについての言葉を並べた。最後に紹介した翻訳家の池田香代子さんの言葉をもう一度、紹介する。雑誌『世界』(2012年7月号)から。

「世界を牛耳っている勢力が怖いのは、得体のしれない有象無象がとびきり面白いことをすることだ」 

だからこそ、今のリーダーたちや既得権益者は、自分たちを脅かす新しい価値観が生まれてくる「辺境」というものを奪っていくのかもしれない。今回は、そんな時代の「リーダー」についての言葉を並べてみたい。 

元外務官僚の孫崎享さんは、著書『日本の「情報と外交」』で、次のように書く。

「一見矛盾しているようであるが、独裁政権は国際的危機に直面すればするほど、国内的に強くなる。戦争という非常事態にあって政権に反対するのは非国民だとして、政治的反対派を強権で弾圧していく。経済が厳しくなると、食料の配給ですら、指導者に忠実な人間は食べ物がもらえる。他方、批判勢力は餓えるということで、指導者の勢力を拡大するのに使える」 (P38)
 

北朝鮮の新しいリーダーしかり、オウム真理教の麻原彰晃氏しかり。独裁的なリーダーたちは、危機感をあおり、求心力を高めようとする。それは、昨今の日本のリーダーや企業のトップも同じような気がする。例えば、経済危機が叫ばれる中で、出てきたアベノミクス。政策に賛同し、従うものだけが、景気回復のおこぼれを手にできる。

一方で、企業でも自由に社員を解雇できるようにしたり、ホワイトカラーエグゼンプションといった新しい制度が、経営者の論理を補完するように導入されていく。
 

経済評論家の森永卓郎さんは、文化放送『大竹まこと ゴールデンラジオ』(4月8日)で次のように話していた。

「実力主義じゃないんです。ボスにこびへつらったやつだけが生き残る社会になる。結局、ボスの命令に忠実で地獄の底まで働いて、全部おべんちゃらで通す奴だけが生き残っていく。実力社会になるんではなくて、うまく立ち回った人が勝つ社会。勝ち組にうまく乗っかっていく人が生き残っていく社会になる」

その結果、誰も言いたいことの言えない社会ができあがってくる。どこの新聞だか失念しているが、日立就職差別裁判元原告の朴鐘碩(パク・チョンソク)さんの言葉が、僕のメモ帖には残っていた。 

「日本の企業社会では、ものを言わない、言えない雰囲気があります。利潤と効率を求め、職場の和を重んじるあまり、言いたいことも言えずに抑圧されて生きている。ものが言えなくなっている日本の状況と民族差別は深くつながっている」 

「私は、おかしいと思うことに対して黙るか黙らないか、人間らしく生きるとはどういうことか、人間として生き方が問われていると思った。自分は黙らない生き方をしたいと開き直ったんです」
 

思想家の内田樹さんの次の指摘は、学校における「いじめ」についてのものだが、政治や企業の独裁的なリーダーと、その下で働く政治家や社員の関係と、まったく同根だと思う。雑誌『新潮45』(5月号)から。 

「今の学校におけるいじめは倫理的に自己評価の低い子どもたちと倫理的に破壊された子どもたちを組織的に生み出す仕掛けになっています。そういう子どもたちは本当に弱いのです。どんな理不尽な要求であっても、大声でどなりつけられると崩れるように屈服してしまう。自尊感情がないから。たぶん損得で動くことはできるでしょう。人の顔色をうかがうことはできるでしょう。世の中の風向きを読んで、『大勢に順応する』ことならできるでしょう。でも、抵抗に耐えてプライドを維持することはできないから、自分が『正しい』と思っていることでも、上位者やマジョリティが強く反対すれば、たちまち撤回してしまう」 (P132) 

理不尽な要求に屈服してしまうことになれた子どもたちが、そのまま「大勢に順応する」ことに長けた大人になっていく。 

元ベイスターズ監督の権藤博氏。彼による野球についての次の指摘も、まさに重なる。著書『教えない教え』から。 

「日本の教育は上に行くための教育であって『上に行って何をすべきか』という教育を怠ってきた。 いや、怠ってきたと言うより、日本社会を牛耳ってきた権力者たちが教育そのものをそういう方向へ持って行ったのだ。自分の意思を持たず、機械のように働く人間を増やすことで日本社会は発展してきた」 (P123) 

以前のブログ(2012年6月7日) で紹介した言葉とも重なる。 「上に行って何をするべきか」を考えずに、トップに立ったリーダーがすることは、とにかく求心力を得るために危機感と閉塞感をあおること。そんな気がするし、そんな社会、組織が強く、面白みがあるとは到底思えない。 

コラムニストの小田嶋隆さんが、ツイッター(2012年2月14日)に書いていたコメント。

「忠誠度の低いメンバーを排除すれば強い組織ができると思うのは早計で、実際には逆サイドに走る選手のいないサッカーチームみたいなどうにもならないものが出現する。そういうチームは行進に向いていても、試合では決して勝てない」 


きっと勝てないだけではなく、ゲーム自体面白くないと思う。もちろん行進など見てても面白かろうはずがない。

「強いリーダー」を求める風潮と、「辺境」を排除する風潮は、表裏一体なのだと思う。リーダーたちが危機感と閉塞感をあおればあおるほど、実は危機感や閉塞感は増幅している気がする。


そんな社会は、やがてどこへたどり着くのか。ちょっと思いだす指摘がある。元オウム真理教信者の上祐史浩氏は、近著『オウム事件 17年目の告白』で、麻原彰晃氏がやろうとしたことについて次のように語っている。

「『預言とは計画なんだ』麻原は力を込めてそう言ったことを、私はよく覚えている」 (P155)

「麻原は、地下鉄サリン事件の前に、『戦いか破滅か』と題するビジオを弟子たちに作らせた。実態は、変わらないと破滅するというのは被害妄想であり、戦ったからこそ破滅したのだ」 (P155)

この「戦ったからこそ破滅したのだ」という言葉は重いと思う。

話を戻す。では上記のようなリーダーや社会にしないため、「辺境」を守るため、僕たちができることはないのか。以前のブログ(2月1日)で紹介した「素人の乱」の松本哉さんの言葉を、最後にもう一度紹介しておきたい。雑誌『世界』(2012年7月号)から。(実は、最初に紹介した池田香代子さんとの対談)。

「勝手なことをする人が少なすぎますよね。いま世の中はどんどん窮屈になっていますが、従順になりすぎて自分で首を絞めているところもあると思います」

「私たちが意外と簡単にできるのは、人の言うことを聞かないということです。強力な指導者の言うこと、軍国主義でもファシズムでも、どれだけ言うことを聞かないか。言われたことを右から左に流して、ケロッとしていられる状況をどれだけつくっていけるか」


 

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