「なにかを決めることにはなにか断つ覚悟が必要だし、それがなければその決断はいい方向に進まないだろう」
前々回(10月15日)と前回(10月16日)は、「リスク」についての言葉を並べた。そこで入れなかった言葉をまず紹介したい。
政策研究大学院大学客員教授の小松正之さんは、雑誌『中央公論』11月号で、次のように書いている。
「決断するためには、知識を集め、思考することが必要になる。ひとつの答えや主張を導くということは、それだけ他の可能性を捨てるというリスクを取ることだ」 (P44)
棋士の羽生善治さんは、著書『羽生善治の思考』で次のように書く。
「積極的にリスクを負うことは、未来のリスクを最小限にすること。決断とリスクはワンセット。本当のリスクとは、決断を下した後にともなうリスクではなく、決断を下すべき時に束の間のリスクを恐れ、逃げてしまうこと。怖いと思っても、恐れず前に進んでいく気持ちは次の勝利への大切な姿勢だと思います」
ともに「リスク」についての含蓄ある言葉。それと同時に「決断」というフレーズも出てくるところが興味深い。もしかしたら「決断」と「リスク」というのはセットかもしれないと思って、そんな言葉を今日は並べてみたい。
まず、メジャーリーグ。ヤンキースで活躍する黒田博樹さんは、まさに『決めて断つ』というタイトルの著書で、次のように書いている。
「なにかを決めることにはなにか断つ覚悟が必要だし、それがなければその決断はいい方向に進まないだろう」 (P13)
さらに次のように書いている。
「思うに、ひとつの道を選ぶには徹底的に考え抜くことが必要だ。それが正解とは限らないわけだが、それでも自分で決めた以上、『あれだけ考えたのだから、これが正解だ』
と思わなければやっていられなくなる。いや、むしろ自分の選んだ道が『正解』となるように自分で努力することが大切なのではないかと思う」 (P165)
上記した羽生善治さんは、著書『直観力』では、次のように書いている。
「対局中に、自分の調子を測るバロメーターがある。それは、たくさん記憶できているとか計算ができるとか、パッと新しい手がひらめるとかいったことではない。そうではなく、『見切る』ことができるかどうかだ。迷宮に入り込むことなく、『見切って』選択できるか、決断することができるかが、自分の調子を測るのにわかりやすいバロメーターになる」 (P27)
続いて、建築家の隈研吾さんが、毎日新聞6月16日で語っていた言葉。
「選ぶことは、諦めること。思い切りよく締める潔さが日本人にかけている」
次のコラムニストの小田嶋隆さんの言葉も、どこか通じるものがあるような。朝日新聞10月8日から。
「人生を途中からやり直そうとするなら、まず何かを捨てることです。捨てた結果、その空白に強制的に何かが入ってくる。その『何か』がいいか悪いかは、また別の問題ですけれど」
断つこと、諦めること、捨てること、見切ること。これこそが、決断すること、選び取ることであるという。「リスクゼロ」の選択肢なんて、そうそうあるものじゃない。我々は、そんな選択ばかり待っているから、なかなか前に進めなくなっているのかもしれない。
その意味で、活動家の湯浅誠さんが、TBSラジオ『ゴールデンラジオ』(7月23日)に「選挙」「投票」について語っていた次の言葉もどこか重なっているのではと思う。
「われわれ、自分の好みのものを選ぶことに慣れている。それが普通になっているので、なかなか自分に100パーセント合致するものはどこもないけど、じゃあ、そのなかでどれがより悪くないかなって選ぶ、という習慣がなかなかない。そうすると、気に入ったものがないという形でどこにも入れないとなる」
「どうしても自分に合ったものを選ぶ、気に入ったものを選ぶというのが、マーケット」
「勝負事はそう。将棋とか、いい手ばかり選んでられない。局面ではより悪くない手を刺さなくてはいけない。そこで致命的な手を刺さないことによって結果的に勝つ。野球もそう。100球投げて、100球ベストの球を投げられるわけはない。そういう風に考えられると、ショッピング的、カタログ的な発想にすると、どこにも入れるところはないとなる。いかに社会をより悪くしない、より少しでも欠点を少なくする方を選ぶという発想もできるんじゃないのかな」
リスクゼロの選択を待つのでなく、決断をして、より悪くない選択肢を選ぶ。こういう考え方が大切なのではないか。当然、そこには「リスク」は伴うだろう。でも、その「リスク」と上手に共存していくというのが人生なのではないか。そう思えてくる。
最後に、羽生善治さんが著書『羽生善治の思考』に書いてあった次の言葉を載せておきたい。
「自分が選んだものに対して責任を取りつつ自信を持つことが大事なのではないだろうか」
そういえば「人生は、選択の連続である」ということを言っていた人もいた。誰か思い出せないけど。
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