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2013年10月16日 (水)

「リスクゼロを求めて焦り、かえってリスクと共生できずに不安要因を増大させてしまっている」

きのうのブログ(10月15日)に続いて、「リスク」について。それにまつわる文章がいくつか見つかったので、ずらりと並べてみる。

まずは、ノンフィクションライターの武田徹さんと、作家の川上弘美さんが、ジブリの『風の谷のナウシカ』を取り上げて書いている文章があったので、それから。 

武田徹さん著書『原発論議はなぜ不毛なのか』から。 

「ナウシカが墓所で述べた通り、『清浄と汚濁こそが生命』なのだ。青き清浄の地がナウシカたちを寄せ付けなかったことは象徴的であり、リスクゼロの空間とは生命活動自体を拒絶する場所なのだ。私たちが既にリスクに汚れていることを自覚し、汚れを引き受ける覚悟を伴わずには私たちの社会は立ちゆかない」 (P150) 

続いて川上弘美さん、『ジブリの教科書1 風の谷のナウシカ』から。 

「生きていれば、まったく害をなさずにいられるわけがない。完全に正しいものなんて、あり得ない。なのに自分のなした過ちを『なすはずがなかったことなのに』と悩むのは、傲慢で自己過信なことなのだと思う。今ではそれがちょっとわかる。マチガイノナイ人間ハ、イマセン」 (P226) 

武田徹さん、著書『殺して忘れる社会』では、「リスク」について次のようにも書く。 

「『リスクをあえて取る』という考え方は日本ではなじみにくいようだ。日本語で「リスク」は危険一般を単にカタカナ読みしただけなものなので『リスクは避けるべきだ』と直結してしまう。リスクゼロを求めて焦り、かえってリスクと共生できずに不安要因を増大させてしまっている」 

統計物理学者で大阪大学教授の菊池誠さんによる「リスク」の説明も分かりやすい。朝日新聞2012年2月29日から。

「リスクというのは『危険度』。『あるかないか』じゃなくて、程度の問題なんです」

程度の問題ということは、そもそも「ゼロリスク」という概念そのものがフィクションなのかもしれない。

続いていて、東海テレビの阿武野勝彦さん著書『戸塚ヨットスクールは、いま』から、現代の風潮について。 

「リスクに過敏になる余り、責任を他者に負わせ、安全圏からモノを投げつける個人主義が、より人間関係を乾いたものへと押しやっている」 

リスクを避け、リスクゼロを追い求める風潮。これが我々の社会を息苦しくしている。 

次は、サッカー界から。まずはライターの海江田哲朗さん。サッカー取材でチームや選手といった取材対象から感じることを次のように書いている。雑誌『サッカー批評』61号から。 

「とにかく、失点しないことが第一。全然せめてない。そういった逃げ腰の姿勢は全体ににじみ出ており、どれほど周囲のエネルギーを注いでいるのか気が付いていない」 (P58) 

そして、イビチャ・オシム氏著書『考えよ!』から。 

「『リスクを負わない者は勝利を手にすることができない』が私の原則論である」 (P144) 

同じくオシム氏雑誌『ナンバー・プラス』(2010年10月号)では、次のように話している。 

「リスクを冒さずに負けた時、日本はすべてを失うということを。単に試合を失うだけではない。これまでに築き上げてきた実績や名誉、信頼、さらには子供達の将来、日本サッカーの未来をも失うことになる。リスクを冒さなければ、勝っても後に何も残らない。逆に負けた時には、ダメージがとてつもなく大きい。誰もがそこをよく考えるべきだ」 

続いて、棋士の羽生善治さん今年2月5日のブログでも、紹介した次の言葉。著書『直観力』 から。

「無駄を排除して高効率を求めたとしても、リスクを誘発する可能性がゼロにはならない。むしろ、即効性を求めた手法が知らず知らずのうちに大きなリスクを増幅させているケースもある。無駄と思えるランダムな試みを取り入れることによって『過ぎたるは猶及ばざるがごとし』を回避できるのではないかと考えている」 (P41) 

てっとりばやく目の前のリスクを避け、フィクションのような「リスクゼロ」を追い求めた結果、かえって大きなリスクを招き、大切なものを失ってしまう。そんな感じだろうか。 

では、リスクとどう上手に付き合って生きていくか。前回、紹介した小松正之さん「いざというときにリスクを取る自信と能力をつけるために、我々は学び続けねばならない」という言葉もそうだが、上記のそれぞれの言葉にヒントがある気がする。 

最後に医師で神戸大教授の岩田健太郎さんの食品についての次の言葉も、きっと他のことにも当てはめることができるのでは。著書『「ゼロリスク社会」の罠』から。

「食品リスクを回避する秘訣は単純で、いろいろなものをバランスよく食べることに尽きます。危険な食品を口にする可能性は常にゼロではありませんが、いろいろな食品を少し打つ食べていれば、悪い食品にあたって時のダメージを最小限に抑えられます」 (P116)
 

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