「日本人が陥りがちなこと。それは『選択肢があるのに選択をためらい。先延ばしにし、いつまでも選択はしない』という態度だ」
きのうのブログ(10月17日)の最後で、誰かが「人生は、選択の連続である」ということを言ったと書いたが、それに近い言葉を見つけたので載せておきたい。
解剖学者の養老孟司さんが、毎日新聞(2011年1月11日)の書評欄で『選択の科学』(著・シーナ・アイエンガー)について取り上げている。その中に次のように書いている。
「だれでも選択する。商品の場合には当然だし、結婚でもそうであろう。人生の大事はどのような選択をするかでしばし決められる」
確かに言われるまでもなく、人生の中で「選択」が重要となることはしばしばある。選ばなければならないし、選んだものが常に正しい、安心という保証はない。
そこで今日は、そんな「選択」についての言葉を並べてみたい。
デザイナーの奥山清行さんは、著書『ムーンショットデザイン幸福論』で次のように書いている。
「日本人が陥りがちなこと。それは『選択肢があるのに選択をためらい。先延ばしにし、いつまでも選択はしない』という態度だ」
ついでに、前回も紹介した建築家の隈研吾さんの言葉をもう一度。毎日新聞6月16日から。
「選ぶことは、諦めること。思い切りよく締める潔さが日本人にかけている」
ともに、日本人は「選択」そのものが苦手になってきているという指摘である。
さらに、毎日新聞の特集記事『イマジン』(6月7日)の中で、こんな文章を見つけた。
「物があふれ、なんでも選べるようになった日本。その中で、私たちは、人生を、暮らしを、社会を自由に選んでいるのだろうか」
「人と異なる選択をして“外す”ことを怖がる人たちは、ランキング情報や、口コミなどに頼る。これにより、選択の同質化が進む」
どんどん選択肢が増えていく現代社会。すると選ぶこと、すなわち捨てることに疲れてくる。その結果、ランキングや他人の選択に乗って選ぶという方法が横行する。これは「ランキング依存」や「数値依存」という傾向とも重なっている。(3月19日のブログ)。「イワシ化」という表現もあった。(4月16日のブログ)
では、どうすれば「選択」に強くなれるか。続いて、そのヒントになるような言葉を並べていきたい。
養老孟司さんは、先ほどの『選択の科学』の書評欄で次のように書いている。
「商品の品揃えが多すぎると、売り上げが激減するという。二十四種類の商品をそろえた場合と、六種類の場合を比較して、購入率に六倍の違いがあることを見出した」
「人間の情報能力に関係する。せいぜい五から九くらいの種類のものしか、われわれは記憶して処理できないのである」
ライターの金子由紀子さんは、著書『40才からのシンプルな暮らし』で次のように書く。
「モノを減らすことで、自分にとって大切なものとそうでないものが、はっきり見えてくるという効用があります。そうすると、やるべきこととやらなくていいことも、自然と見えてくるのです」
モノが増え、選択肢が増えていくことは豊かな社会の一面であることは間違いない。でも、いくら選択肢が多くても選べなければ、もともこうもない。前回のブログの中での言葉とも通じるが、豊かな選択肢を前にして、自分の価値観に従い、そこから捨てる、見切るなど、断捨離を行うことは、すなわち選びやすくするための準備でもある。
棋士の羽生善治さんも、著書『羽生善治の思考』で次のようにも書いている。
「たくさんの選択肢のなかから選ぶと、間違いなく後悔する。3つくらいのなかから選ぶのは後悔しないのに、10も20もあるなかから選ぶと、絶対に後悔することになる。ただ、そういうものだと思っていれば、それほど悩んだり、後悔することは少ない」
ちょっと飛ぶが、国の混乱を避けるため、選挙での政党の数を制限している国(?)もあるというのを読んで興味深く感じた。
ノンフィクションライターの高野秀行さんの著書『謎の独立国家ソマリランド』から。ソマリランドの選挙制度について。
「まず、政党の数は三つに限定されている。もし政党の数をかぎらないと、ちいさな分分分家くらいのレベルまで氏族レベルで人々が政党を作ってしまうことが目に見えているからだという。たった三つしかなければ、氏族間で協力する必要がある。では、どうやって政党を三つに絞るかというと、これが選挙なのである。人(議員)を選ぶ前に『党』を選ぶ選挙があるのだ。憲法ではこの政党選挙を十年に一度行うと明記されている」 (P463)
「ソマリランドの憲法では『政党は三つまで』と定められている。そして十年に一度、その三つの政党を決める選挙が行われる。ベスト3から漏れた政党は消滅し、政治家は三つの政党のどれかに入党することになる。なぜそんなことをするのか。それはまず氏族同士で固まるのを防ぐため。もうひとつは政党が乱立すると単純に国民が混乱するから」 (P494)
もちろん日本の選挙に、この方法をいきなり導入するわけにはいかないのだろうが、生活の中で、常に選択肢を減らしていく工夫・訓練をしていくことは可能なのではないだろうか。最後に、こちらもヒントになる言葉。船橋洋一さんの『カウントダウン・メルトダウン』に紹介されていた、当時、内閣参与だった劇作家の平田オリザさんの言葉。
「ベストの選択は無理だと思います。できる限り公正と思われる情報を集めて、次善、三善の策を考えていくしかありません」 (P202)
ベストの選択をしようとするから選択できなくなっていく。リスクゼロではないにしろ、ベターと思われるものを選び、そのあとは「だましだまし」修正を加えていくという風に考えることができれば、少しは楽に「選択」できるようになりそうな気がする。
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