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2013年12月25日 (水)

「国益っていう言葉を中央の政治家が言い出したときに、私たちはもっと注意しなきゃいけない」

今日の朝日新聞(12月25日)のオピニオンのページに、作家の星野智幸さんが寄稿していた。その中で、最近の日本人について指摘している次の文章が気になった。

「今や同調圧力は、職場や学校の小さな集団で『同じであれ』と要求するだけでなく、もっと巨大な単位で、『日本人であれ』と要求してくる。『愛国心』という名の同調圧力である。『日本人』を信仰するためには、個人であることを捨てなければならない」

 

個人であることより、日本人であることが優先される。こうした風潮は、前回(12月7日)のブログで紹介した「国民」「市民」より「国家」を優先したがっている人たちの言葉と重なっている。

 

また星野さんは、次のようにも指摘している。

 

「長年の経済的な停滞と労働環境の悪化、それにともなう人間関係の破壊、いつか人生を転落するんじゃないかという恒常的な不安などがつのっていたところに、大震災と原発事故が起こった」 

 

「限界ギリギリで持ちこたえていることに疲れきり、もう落ち着きたい、安心したい、穏やかでいたいと、安定を求める気持ちが高まるのは当然だろう」

「『日本人』信仰は、そんな瀬戸際の人たちに、安らぎをもたらしてくれるのである。安倍政権を支えているのも、安定を切望するこのメンタリティーだろう」 

 

社会への不安が、「日本人」としての同調圧力を強める。これは、ジャーナリストの安田浩一さん対談本『ナショナリズムの罠』で、ヘイトスピーチが広がる背景についての指摘と重なっている。

 

「いまは、しんどい世の中なんだと思うんです。さまざまな価値観を持った人が多量な生活を営んでいることが認識されるようになると、不安に陥る人が多くなるし、僕だってその一人なわけです。多様性や多文化共生というのは非常に大事なもので、なくてはならないものだと思うけれども、多様化すればするほど、自分の他地域がどこにあるのか、どこにアイデンティティーを求めたらいいのか不安に思う人が出てくると思うんです。その自分の存在のありかを求めたとき、行き着いた先が国家や民族といったフィクショナルなところに回収されていくという思考は、いま多くの人が多かれ少なかれ抱えているんだと思う」 P49)

そんな社会と人々の不安について、経済アナリストの藻谷浩介さんは、新著『里山資本主義』で次のように述べている。

「はじき出されないためには、不安・不満・不信を強調しあうことで自分も仲間だとアピールするしかない。つまり擬似共同体が、不安・不満・不信を癒す場ではなく、煽りあって高めあう場として機能してしまう」

「安倍首相も、不安・不満・不信を解消する力量のある人物というよりは、自分と同じ目線で不安・不満・不信を共有し、自分の側に立って行動してくれる人物として人気になる」 (P253)

その不安につけ入り、利用するのが政治家なのである。

先ほど紹介した対談本『ナショナリズムの罠』の中では、安田さんの対談相手のジャーナリストの木村元彦さんが、映画監督のクストリッツツアについて語っている。

「クストリッツァが怒っていたのは、さきほども話しましたが、同じ敷地の学校で、それぞれの『民族』が違う教科書を使ってそれぞれが『正しい』と考える歴史を学び、7~8歳の子供が『あんなやつらはいつか殺してやる』というようなナショナリズムを政治家が煽ったことです」

 

「文化の違いや差異を、ことさら煽ることによって敵と味方にして求心力を得ていったナショナリストの政治家がいて、クストリッツァはそれに怒っているわけです」 P57)

 

作家の星野智幸さんが指摘する「ナショナリズム信仰で安心したい人たち」、「それを利用しようとする政治家たち」の構図がまさにユーゴスラビアでは起きていたのだ。

 

最後に、もう一つ。同じ本の中で木村元彦さんが指摘している次のことは、ぜひ覚えておいたほうがいいと思う。

 

「ボスニアも追われ、その後に入植したコソボも追われたセルビア難民は、『国益っていう言葉を中央の政治家が言い出したときに、私たちはもっと注意しなきゃいけない』と言ってました。国益なんて無人格なものに踊らされないようにしないといけないんじゃないかと思います」 P69)

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