「時代の風を受けながら、未来を切り開こうという思いが、制作側にも、出演者にもあふれていた。そうした気概を感じさせてくれるバラエティ番組がほとんど見当たらなくなった」
先日、このブログ(4月10日)で「最近のお笑いには批評精神がない」ということを書いた。
そこでは「失念している」と書いていたが、その元となる言葉がみつかったので、改めて紹介したい。元フジテレビのプロデューサー、佐藤義和さんの言葉。著書『バラエティ番組がなくなる日』より。
まず、現在のお笑いタレントたちについては、次のように書いている。
「今どきのお笑いタレントたちは、とても頭がよく、社会性もある。ネタの完成度も高く、整っている。現在の視聴者にどのようなものが受けるかを研究した上で、正しい計算をしている。どんな舞台に立たせても、一定の笑いをとり、客を満足させることができるのだ」 (P123)
これは、前回の時に書いた爆笑問題の田中裕司さんの言葉と重なる。
しかし佐藤氏は、お笑いのレベルは上がっていると指摘する一方で、次の指摘もしている。
「その一方で、時代を変えていこうとする気概、気負いのようなものはまったくない。ないことが悪いとは思わないが、新しい時代をつくっていくための武器としての破壊力もあまり感じられない」
「それはお笑いタレントに限った傾向ではなく、日本の若者全体に共通することだろう。世の中に不満をもって闘おうとすることは、彼らにとって見返りのないそんな役回りである。多少、不満を抱いていたとしても、それは心のなかにしまって、静かに生きていたほうが無難だということだ」 (P123)
その結果、現状維持や予定調和の温存が続いていくことになっているのではないだろうか。
新しい価値観というものが生まれることなく、いつまでも閉塞感は続いてしまう。
佐藤義和さんは、かつて自分の担当していた番組については次のように書いている。
「確かに、『オレたちひょうきん族』をくらだない番組だったといわれれば、そのとおりかもしれない。少なくとも高尚な番組ではなかっただろう。子どもたちに悪い影響を与えなかったといい張るつもりはない。しかし、新しい笑いをつくり出そうという情熱はあった。時代の風を受けながら、未来を切り開こうという思いが、制作側にも、出演者にもあふれていた。そうした気概を感じさせてくれるバラエティ番組がほとんど見当たらなくなった」 (P23)
新しいものをつくろう、未来を切り開こう、という気概はあったという。
新しいものを創り、未来を切り開くためには、現状を見つめ、揺らし、時には否定することが必要となる。それが「批評精神」というもの。
佐藤氏は、こうも書いている。
「日本人は、社会風刺の価値をふたたび見つめるべきだと私は思っている。まだ具体的に何をすればよいか、プランはないが、日本のお笑いをもう少し腰のあるものにするために、社会風刺の切り口が必要なのだろうと思う」 (P182)
「その根拠のひとつは、笑いの原点に『社会批判』があるということである。社会批判といっても、新聞の社説や雑誌記事のように『こんな問題が存在する』『こんな悪い奴がいる』といったトーンではなく、『社会風刺』というしゃれた手法で、この社会を切っていく。それも日常社会を慎ましく送る庶民の視点で」 (P188)
せっかくタレントのレベルが上がっているのなら、「新しい価値観が生まれるかもしれない」という可能性を感じられるお笑いを少しずつでいいので作っていってほしい。
お笑いには、現状に水を差す大切な役割があるのだから。
個人的な心からの希望です。
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