「ドイツにとって移民国家への転換は、外国人を『リスクとコストと考える文化』から『ドイツに貢献する歓迎すべき人々と考える文化』への転換でした」
ここまで何回かにわたって、日本サッカーと日本社会とを重ねるように、「多様性を進めること」の必要性について考えてきた。(7月3日のブログ以降)
きのうの夜、読んでいた本にも「多様性」についての指摘があったので、前回のブログ(7月16日) の追加として読んでほしい。
きのうのブログでは、古代ローマは、異質なものを求めて、豊かな社会を作り上げた、という話をした。
経済学者の野口悠紀雄さんも次のように指摘する。新著『変わった世界
変わらない日本』より。
「エイミー・チェア『最強国の条件』は、世界をリードする最強国の条件は『寛容性』だという。これは、異なる人種や多様な宗教・文化を許容することだ。古代ペルシア帝国の時代から、世界を支配する国や社会は、寛容政策を採用することで勃興した。ところが、不寛容が次第に頭をもたげる。そして、排他主義に陥り、衰退し、滅亡する」 (P187)
例えば、現代のアメリカだって、異なる民族や文化に寛容だから「最強国」になれたのである。
もちろん日本が今後、「最強国」になる必要はないのかもしれないが、ただ「豊かな社会」としてやっていくためには、「寛容性」が必要となってくるということ。
そして、異質なものを許容して取り入れていかないと、社会の閉塞感はますます強くなる。
「資本と人材を海外から導入することによって、旧システムの核心を破壊することを考えるべきだ。海外からのものは、異質だから破壊者にもなりうるのである」 (P278)
「もっとも重要なのは、ここで述べたように、日本国内においても、さまざまな国の人々と共同で仕事を進めることだ。『規制緩和が必要』としばしば言われるのだが、もっとも重要な規則緩和は、外国人労働者に対して門戸を開くことである」 (P279)
しかし、日本では「異質なものを排除」という風潮は、ますます強まっている。(3月14日のブログ など)
野口悠紀雄さんも次のように指摘する。
「日本人が外国人を拒否するのは、『異質なものを排除したい』という感情があるからだ。『外国人であること、異質であること』だけの理由で拒否する。こうしたクセノフォビア(外国人恐怖症)的国民感情を変えることが必要だ」 (P278)
「大組織病におかされた大企業は、リスクをとらない状態が続いた。大企業の経営者は、これまでの事業を変えようとしない。変えれば、企業の中で自らの地位が脅かされるからだ」 (P118)
「しかし、それに対しては、多くの人が反対する。人材開国は、もっとも重要であるにもかかわらず、実現が困難な成長戦略だ。そうした戦略を採用できるか否かが、日本の将来を決めるだろう」 (P279)
結局、日本社会自体が「抵抗勢力」なのである。未来や将来より、今の地位…。そして、このまま沈んでいく。(2013年5月7日のブログ)
今朝の朝日新聞(7月17日)に、W杯ブラジルで優勝したドイツの元連邦議会議長であるリタ・ジュスムートさんのインタビューが載っていた。どうやってドイツは多様な移民を受け入れ「移民国家」を作り上げたか…。このインタビューの中から、日本のヒントとなる言葉を抽出しておきたい。
「大切なのは『寛容』より『リスペクト』(敬意)。『ここにいても構わないが、最終的に“あなたたち”は“私たち”と違う』ではだめなのです」
「答えはひとつ。彼らがいることでプラスと思えることに目を向けましょう」
「ドイツにとって移民国家への転換は、外国人を『リスクとコストと考える文化』から『ドイツに貢献する歓迎すべき人々と考える文化』への転換でした」
ちなみに、ジュスムートさんは、日本社会の移民受け入れについては「待ったなし」と答えている。
きのうのイビチャ・オシム氏の指摘もそうだが、ドイツはこうやって「多民族社会」を作り上げた。その結果としてのW杯での優勝なのである。この社会とサッカーはかなり密接に関連していると思う。
日本にも、そういう社会を作ることは可能なのだろうか。
でも、何度も書くが、多様性に寛容な社会を作らないと、「豊かな社会」「強い社会」も手にできなければ、世界に対して「強いサッカー」だって、「強い文化」だって発信できない。国のリーダーが、表面だけの「強い国家」を謳ったところで虚しいだけとなる。
また今の日本のように、効率性ばかりを求め、「不寛容」「排他主義」な政策を続けていけば、野口悠紀雄さんの最初の言葉のように「滅亡」「衰退」が現実のものとなってしまう。
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