「政治的な立場を超えて、サッカーで人々が一つになっていると実感できる瞬間があるのは、大きな喜びだ。それがスポーツの力なんだと思う」
サッカーでの「多様性」についての話を、今回も。おとといのブログ(7月5日)の続き。
日本のサッカー界は社会に率先して「多様性」に取り組む必要がある、という話を前回のブログでは書いた。そのあと、読売新聞(7月6日)を読んでいたら、興味深い記事が載っていた。
編集委員の川島健司さんが署名入りで書いている『Bird’s view』というコラム。この日は、サッカーのスイスチームについて書いている。スイスは、ヨーロッパ予選を1位で通過し、今大会でも決勝トーナメントに進出した強豪チームである。
「強さの一つの源となっているのが、驚くほど多彩な選手の出自」
今回のスイス代表チームは、代表選手23人のうち、半分以上が移民かスイス生まれでも両親が外国人ということ。
「スイスの人たちも、移民がさらに増えていくような今回の代表チームの構成を見て、多様性を持った集団が一つにまとまった時の強さを感じたのかもしれない」
「政治的な立場を超えて、サッカーで人々が一つになっていると実感できる瞬間があるのは、大きな喜びだ。それがスポーツの力なんだと思う」
スイスチームついて調べてみた。
オットマー・ヒッツフェルト監督は、今回のチームについて次のように語っている。インターネットサイト「swissinfo.ch」(6月26日) より。
「トルコ移民のインレルをキャプテンにしたのは、外国にルーツを持つ選手に重要な役割を与えたかったからだ。この多様性は今のスイスをよく表しており、スイスの寛容の証でもある」
続いて、スイス・サッカー協会のペーター・ジリエロン会長の発言。
「スイスでは、外国人受け入れの道具としてサッカーほど重要な役割を果たしてきたものはない。過去数十年間、移民たちは何よりもこのスポーツをしながら、スイスとスイス人の中に溶け込んでいった」
まさに、サッカーの強さの裏には、社会と向き合いことが密接に関係している。そんな発言である。
もちろんサッカーだけの話ではない。
例えば、野球のWBC前大会で活躍したのがオランダ・チーム。バレンティン選手やアンドリュー・ジョンソン選手のふるさとがオランダ領キュラソー。ここが名選手を多く生んでいるのも「多様性」と関係しているということ。(スポーツライターの中島大輔さんの記事)
そして、日本のサッカー。
ここ数回のブログで言葉を紹介した人たち。田中マルクス闘莉王選手、イビチャ・オシム氏、セルジオ越後さん、李国秀さん、この4人は、いずれも日本サッカーと深くかかわった人たちだし、また多様な文化的背景を持った人たちという共通点もある。
当然のことだが、もう何十年も前から日本サッカーの「多様性」は始まっている。それは、一般社会とかわらない。
しかし一方で、最近になって逆の動き、つまり多様性を排除する動きが強まっているのも確か。それが表に現れたのが浦和レッズのサポーターが起こした「横断幕問題」だった。
もう一度、エスパルスのゴドビ監督が、無観客試合のあとの記者会見(3月23日)で語ったものを載せておきたい。(4月9日のブログ)
「サッカーから差別をなくしていかなければならない。人と人の違いがあるからこそ、世界は美しい。私がサッカーを始めたころボールは白と黒だった。今は様々な色で彩られている」
その通りだと思う。
ただ多様性を進めていく中で、覚えておいた方がよい指摘もある。上記のサイト「swissinfo.ch」(6月26日)の記事から、ローザンヌ大学のスポーツ社会学者、ファビアン・オール氏の指摘。
「多文化的なチームが勝利を収めると、皆『多様性』を誉め称える。しかし、失敗したり成績がぱっとしなかったり論争になったりすれば、『違い』の方が再びクローズアップされる」
ちゃんと負の面と向き合いながら、それを乗り越えていかないといけない。
多様性から逃げるのではなく、プラスとマイナスの両面と向き合っていかないと、我々のサッカーも、社会も「強く」なれないということだと思う。
最後に、今回のW杯ブラジル大会で、ブラジルのルセフ大統領が述べた言葉を載せておきたい。東京新聞(7月6日)より。
「W杯は人種差別に対抗する力になる」
今大会は、人種差別根絶がテーマになっている。差別の根絶のためには、当然、多様性に寛容にならなければならない。
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