「それなのに、日本人は負けてはダメ、勝ち続けなければダメ、という考え方が根強いようです」
きのうのブログ(7月9日)では、サッカーで「絶対に負けられない」と煽りつづけるメディアの問題についての言葉を並べてみた。
「負け」を許さない、想定しないという風潮は、もちろんサッカーだけではない。日本社会の体質と言ってもいいものかもしれない。
例えば、久米宏さんは次のように指摘。TBSラジオ『久米宏 ラジオなんですけど』(6月28日放送)より。
「これは、高校受験とか大学受験とかで、入試の子供を抱える親御さんも。滑り止めを考えること自体、ダメだ。滑り止めを考えるようじゃ、本命には受からないよ。という考え方を持っていたりする」
当然、大人や親の考え方は子供にも影響する。サッカーコーチの池上正さん。今の子どもは「負けること」を極端に嫌うと指摘する。著書『少年サッカーは9割親で決まる』で次のように書く。
「例えば、かけっこはタイム別。算数の少人数クラスなども何事もレベル別になっているため『大きく負ける』体験ができません。要するに、負けることが当たり前とか、負けることだってあるさという『負けることへのタフさ』が、今の子どもには欠けているようです」 (P39)
次のような話も紹介している。
「私がジェフ時代に一緒に仕事をしたブラジル人コーチのジョゼが、ブラジルのことわざみたいなものを教えてくれました。それは『人は一生勝ち続けることはできない』というものです。それなのに、日本人は負けてはダメ、勝ち続けなければダメ、という考え方が根強いようです」 (P125)
当然のことだけど、ずっと勝ち続けることはできない。いつかは負ける。今回のW杯で、スペインがそうだったし、ブラジルもそうだった。いつかは負ける。「絶対に負けられない」と叫んでも、「負け」というものから逃げることはできない。
スポーツライターの杉山茂樹さんには、最近、タイトルもそのままの著書『「負け」に向き合う勇気』を上梓している。その中でサッカーについて、次のように書く。
「『10回戦って何回勝つか』という考え方で臨むべきスポーツなのだ、サッカーは」 (P195)
「W杯は負け方を競うコンテストだと思う」 (P234)
なのに、日本は常に「絶対に負けられない戦いがある」という煽りの中で戦いつづける。杉山さんは、こうも指摘する。
「勝てば喜び、負ければ悲しむ一喜一憂は、0か100かの極端な選択肢の中に身を委ねることを意味する。思考停止の状態にあると言っていい。日本には中間の感情がないのだ。すると、喜べば喜ぶほど、対極に位置する負けが怖くなる。世の中はいっそう、結果至上主義、勝利至上主義に傾いている。負けに対する備えができていない。僕にはそう見える」 (P5)
きのうも紹介したが、杉山さんはメディアについても、次のように書く。
「報道と応援を一緒くたにしているのが日本の報道の問題だ」 (P72)
つまり、報道、すなわちメディアがどこの誰よりも、「勝てば喜び、負ければ悲しむ」という風に「感情的」になっている。結果、どんどん「勝利至上主義」が加速する。(2013年1月28日のブログ など)
どうすれば、いいのか。上記の池上正さんの次のアドバイスにそのヒントがある気がする。
「それでは、そういった部分をどうすれば改善できるでしょうか。それには、まず親の方が負けることにタフになること。もっと言えば、わが子が負ける姿を目にしても、揺らがないこと。出来が悪かったり、ミスしたり、試合に負けても、見ている親が感情的にならないことです」 (P39)
日本代表に当てはめると、「親」に当たる部分は…。たぶん、「メディア」。やはり、メディアが「感情的」にならないことから始めないと、「負け」と向き合わない体質は変わらないのではないか。もちろんメディアだけが悪いわけではないが…。
「負けることにタフになること」。
これは、国全体が右肩下がりの時代に突入している日本全体に必要なことなんだと思う。
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