「絶対に負けられないという考え方をしてはいけない。絶対に負けられないというのは戦略の放棄だと思う」
今回もサッカーの話をしたい。今回は、メディアの話を中心に。
ずっと違和感をもっていた言葉というか、キャッチコピーがある。
「絶対に負けられない戦いが、そこにはある」
このキャッチコピーは、テレビ朝日がサッカー中継の時に使っているもの。確かに耳触りはいい。でも…、という感じがしていた。
と思っていたら、
コラムニストの小田嶋隆さんが、サッカー日本代表を取り上げるメディアについて、以下の指摘をしていた。TBSラジオ『久米宏 ラジオなんですけど』(6月28日放送)より。
「色んなメディアも、『絶対いける、絶対いける』って言って、日本代表が敗退した後のことを考えない態勢で臨んでいたと思う。『敗退するかもしれない』『自分たちの攻撃が通用しないかもしれない』というときのB案を考えておかない、というのは、帝国陸軍が自分たちの敗北を信じないどころか、可能性を口にする人間を排除していた、というのと構造的に似ている気がする」
こういうとき、いつも日本では異論をはさみにくい空気ができあがる。
「戦いの前は、ネガティブな発言はするみたいな感じになっていた。『どうですか?』って聞かれたときに、『絶対いけます』『ベスト8です』『ベスト4です』あるいは『優勝です』という声をみんな言わなければならない雰囲気になっていた。専門家でも」
「正直な感想を言えない空気ができていたことが、もしかしたら、どうかしていることなのかも」
「絶対に負けられないという考え方をしてはいけない。絶対に負けられないというのは戦略の放棄だと思う」
その通りだと思う。
「絶対負けられない」という目標を掲げて、それに対する異論を排除する空気を作り上げる。ここでも「同調圧力」が起動している。
その同調圧力の先導をしているのが、メディアなのである。
サッカージャーナリストの杉山茂樹さんは、著書『「負け」に向き合う勇気』で指摘している。
「報道と応援を一緒くたにしているのが日本の報道の問題だ」 (P72)
サッカー解説者のセルジオ越後さんも、次のように指摘している。 雑誌『週刊サッカーダイジェスト』(7月15日号)より。
「メディアの仕事は応援ではなく、批評だ。日本サッカーを強くしたいなら、本来の役割を果たすべきだよ」
こちらも、その通り。
応援、どころか、大騒ぎすることが「報道」だと日本のジャーナリズムは思っているきらいがある。特に、W杯での日本チームの試合前は、テレビを中心にその大騒ぎしているだけの「応援」を「垂れ流し状態」で伝えていた。
社会学者の中島岳志さんの指摘。著書『街場の憂国会議』より。
「全体主義は感動を伴って蔓延する。大衆文化とメディアが一体化して感動を煽り、抗いがたい空気を作り出す。ジャーナリストや言論人は、これに対して水を差さなければならない。しかし、メディアは空気に便乗する。空気の支配を先導し、助長する」 (P169)
これは、社会全般についての指摘だが、まさに今のサッカーにおけるメディア&サポーターにもあてはまる。応援という、ある意味での「感情」の押しつけによって、同調圧力を強めていくやり方。過程で「異論」を聞きながら、様々な検証を行うことを放棄。そして敗戦、惨敗。
しかし、なぜか同じことを繰り返す。
久米宏さんは、次のように言っている。TBSラジオ『久米宏 ラジオなんですけど』(6月28日放送)より。
「これから4年間、日本代表をどう組織を考えてつくっていくかよりも、 また4年かけて、また『負けない神話』を作り出す。ロシア大会でも『今度こそ負けない神話』をどうやってつくるのか。また虚構の城を作っていくことになるのかもしれない」
実際、既にスポーツ新聞やテレビなどでは、「反省」「検証」「総括」よりも、次期監督人事で花盛り。
セルジオ越後さんのメディアに対する指摘。 雑誌『週刊サッカーダイジェスト』(7月22日号)より。
「このサイクルでは、この先も日本が勝てるとは思えない。もしかしたら売り上げに結びつかなくても、日本サッカーのためになる重要な事柄を世間に問うて、興味を持たせて、皆で考えていかないと、結局、最後は『ドンマイ、ドンマイ』で終わってしまう」
大会の前は「絶対に負けられない」と煽り、感情の盛り上がりによって理論的な異論を排除する。その結果の惨敗。でも敗戦から学ぼうとはせず、また同じことを繰り返す。
戦争、原発…、様々な場所で見られる日本のサイクルである。
サッカー界でも、同じことを繰り返していることが、あまりにも悲しい。商売第一で、そのサイクルを主導し、加速させているメディアの罪はあまりに大きい。
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