「つまり、ビッグデータが活用されればされるほど、世の中が均質化していくことになり、社会の多様性は失われていく危険があります」
予想社会。その16。
週末に読んでいた本に、イラストレーターの寄藤文平さんの言葉が載っていた。『失われた感覚を求めて』(著・三島邦弘)より。
「電王戦に注目しているんです」
「たぶん負けるんです、棋士は。仮に今回負けなかったとしても近々、コンピュータに負けることは避けられないでしょう。そのとき、棋士は何をモチベーションに将棋の高みを目指すんでしょうね。それが知りたくて注目しているんです」
僕も、そうしたことが知りたくて言葉を転がしている。
TBS『情熱大陸』(4月13日放送)。この時の主役というか、テーマは「将棋電王戦」。 第三局で豊島七段に対して、コンピュータが「悪手」を打った時、次のようなナレーションが流れた。
「コンピュータは劣勢になると延命のためだけに行動することがある。いわばその場しのぎだ」
また将棋観戦記者の松本博文さんも、著書『ルポ電王戦』で次のように書いている。
「形勢が良くないとき、ソフトは決定的な破滅を先延ばしにしようとして、意味のない手を指してしまうことがある。これが『水平線効果』、または『地平線効果』と呼ばれる現象で、よくないことをまだ見えない水平線の先に追いやろうとするのだ」 (P197)
このコンピュータ将棋の習性というか、欠点は興味深い。当然、ビッグデータにも「予測」できない事態はある。
上記の欠点は、まるで太平洋戦争末期に、「希望的観測」を積み重ね「判断」「決断」ができないなか、「敗戦」を先延ばし続けた日本の中枢とそっくりだったりもする。
我々は、ビッグデータから「予測」を導き、それをトレースする「予測社会」に生きる。そのマイナス面についての指摘した言葉を新たに並べておきたい。
牧野武文さん。著書『進撃のビッグデータ』より。
「多くの人が自分の性別、年齢、年収、業種などで分類されるプロファイルの平均像に近い生活を送るようになり、考え方もどんどん似通っていくことになります。つまり、ビッグデータが活用されればされるほど、世の中が均質化していくことになり、社会の多様性は失われていく危険があります」 (P172)
「ビッグデータの最大の問題は、世界がデータ至上主義に陥ってしまう不安です」 (P174)
「それがあまりに度を過ぎると、『理由はどうでもいいから、とにかくそうしろ』ということになり、理由を考えずに毎日の業務に向かっていくことになります。しかも、それで売り上げが挙がっていくのですから、誰も疑問を挟まなくなります」 (P175)
思考停止のような状況が生まれる…。
また遺伝子検査が広がるとどうなるか。豊橋技術科学大学学長で、分子生物学者の榊佳之さんの言葉。NHKスペシャル『あなたは未来をどこまで知りたいですか~運命の遺伝子~』(7月7日放送)より。
「人類は多様でなければ、生き物としてタフではない。例えばいろいろ感染症がある。それでも多様だから、タフに残る人がいる。一緒だったら、みんなバタンと倒れて、人類おしまいってことになりかねない」
ビッグデータによる「予測」を全部否定するつもりはない。大いに活用でき、役に立つことも多いのだと思う。
ただ、そのマイナス面に目を向けていなければ、我々はただ「予測」に従うだけの思考停止状態となってしまうのではないか。そんな気がしてしまうのである。
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