「現代社会では未来に目標を設定し、その目標を達成するために現在を効率的・合理的に生きることが求められている」
安倍総理がきのう(22日)、衆議院で施政方針演説を行った。
「一億総活躍の未来を拓く」
「安倍内閣は『挑戦』を続けてまいります。皆さん、共に『挑戦』しようでありませんか」
相変わらず、「挑戦」という言葉が並ぶ。今回は21回使ったとのこと。(1月8日のブログ)
また安倍総理は、今国会を「未来へ挑戦する国会」と位置付けているのとのこと。朝日新聞夕刊(9月22日)より。
演説の「全文」を読んでみると、確かに「未来」という言葉も多用している。
未来…。
すぐに思い出した言葉がある。
立教大学大学院の杉原学さんの指摘。『半資本主義社会』(著・内田節)より。
「現代社会では未来に目標を設定し、その目標を達成するために現在を効率的・合理的に生きることが求められている」 (P117)
「『わたしたちは、歳月の方をつかまえると、この瞬間を失ってしまう。未来のために生きると、生きている現在を見失ってしまう』このように述べ、現在が未来のための手段でしかなくなっていくことを憂いたのは、コミュニティ研究で知られる社会学者、マッキーヴァーであった」 (P117)
次の養老孟司さんの指摘とも重なる。著書『カミとヒトとの解剖学』より。(2014年10月6日のブログ)
「未来とは、本来の意味合いでは、なにが起こるか、『まだ未定』のものだった。しかしいまでは、その未来が殆ど現在に変わった。なぜなら、そこで起こることは、むしろ『既定の事実』に近くなったからである」 (P171)
「予測され、統御された『確実な未来』、それはもはや未来ではなく、現在であろう。われわれは可能なかぎり予測を進め、その結果にしたがって、未来を『統御する』。それが進めば進むほど、未来はどんどん現在に転化して行き、われわれはどんどん忙しくなる」 (P173)
未来に向けて社会がまい進し始めると、私たちはより効率的・合理的に生活することを求められ、現在すなわち「日々の営み」を犠牲にして、どんどん忙しくなっていく。
さらに、杉原学さんの指摘。
「未来とは文字通り『未だ来ぬ』時間のことであり、本質的に不確実性をはらんでいる。その不確実な未来への関心が強まった結果、人々は常に不安のなかで生きることを余儀なくされているのではなだろうか。そしてその不安が大きくなるほどに、未来の不確実性に対応するための『現在の手段化』がますますエスカレートしてゆく」 (P118)
つまり、リーダーが「未来」に向けた掛け声を挙げれば挙げるほど、私たちには、希望よりも不安感が増えていくのではないか。
安倍総理の演説を新聞で読んでいて、そんなことを考えた。
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