仕事・労働

2014年4月28日 (月)

「『人材』という言葉は、本当は恐ろしい言葉であって、これからの社会では自分が『人材』だと言われたら怒るような、侮辱的な言葉と考えるべきだと思うのです」

前回のブログ(4月25日)の最後で、アメリカの政治学者のC.ダグラス.ラシスさんの次の指摘を紹介した。著書『経済成長がなければ私たちは豊になれないのだろうか』より。

「『人材』という言葉は、本当は恐ろしい言葉であって、これからの社会では自分が『人材』だと言われたら怒るような、侮辱的な言葉と考えるべきだと思うのです。私は材料じゃない、人間です、と答える人が増えるようになったらいいと思う。人が人材になるということは、人間を生産の手段にするということです」 (P150)

たまたまだが、そのあと『ワンピース・ストロング・ワーズ・セカンド』(著・尾田栄一郎)を読んでいたら、その解説で思想家の内田樹さんが、主役のルフィについて次のように書いていた。

「ルフィは『人材』という言葉も、『即戦力』という言葉も、『採用条件』という言葉も使いません。使うわけがないんです。そんなものは本当に創造的で、冒険的な組織にはあり得ないから」

「まず人との出会いがある。そこで『一緒にいたい』という思いが発生する」

「その人が出現して、その仕事をしてくれたおかげで、『ああこういう仕事をしてくれる人を私たちはずっと待ち望んでいたのだ』という認識に達する」 (P208)

雇われるものは「材料」ではなく、雇う者にとって一緒に働く「仲間」なのである。本来は。しかし現実は…。

ということで、今回も「労働」についての続きです。

前回は、日本社会では、経済成長のもと、人を「労働力」といして「消費」してきたという指摘を紹介した。

作家の高橋源一郎さんも、朝日新聞(4月24日)の論壇時評「ブラック化する、この国」で、次のように分析する。

「経済界は、いつでも辞めさせることのできる『労働力』を求めた。新自由主義の下に、あらゆるものが市場原理に晒されることになった。教育も例外ではなかった。学生たちは、取り換えの利く駒の予備軍になった」

教育も市場原理に取り込まれた結果、学生たちはどうなったか。

再び、内田樹さん。少し前の毎日新聞(2012年1月18日)では、次のように書いている。

「若者たちはおびえ、自信を失い、『いくらでも替えのきく使い捨て可能な労働力だ』と信じ込まされた。彼らは、どれほど劣悪な雇用条件に対しても行き申し立てができない」

高橋源一郎さんは、経済界側の要求だけで「駒」(「材料」)にされているわけではない、とも指摘。朝日新聞(4月24日)から。

「わたしたちは自ら望んで『駒』になろうとしているのかもしれない。わたしたちは、立ち向かわなければならないだ。まず、わたしたち自身の内側と」

やれやれ。
人を労働に就く「駒」としてしか扱わない世の中。我々はそんな場所で生きていくためには、自ら進んで「駒」になっているという。

この展開で文章を終わるのは忍びないので、もう少し。
高橋源一郎さんは、上記の文章の最初のところで、大学で働く同僚が卒業式で述べた学生向けの挨拶を掲載している。

「卒業おめでとうとはいえません。なぜなら、あなたたちは、これから向かう社会で、あなたたちを、使い捨てできる便利な駒としか考えない者たちに数多く出会うからです。あなたたちは苦しみ、もがくでしょう。だから、そこでも生きていける知恵をあなたたちに教えてきたつもりです」

では。この同僚という方が述べた「生きていける知恵」とは何か。

思い出す言葉がある。高橋源一郎さんが教えている大学とは違うけど、立教大学の吉岡知哉さんの言葉。このブログでも、これまでも何度か紹介している。もう一度、その言葉を。2011年度の大学院学位授与式での式辞から。

皆さんがどのような途に進まれるにしても、ひとつ確実なことがあります。それは皆さんが、『徹底的に考える』という営為において、自分が社会的な『異物』であることを選び取った存在だということです。どうか、『徹底的に考える』という営みをこれからも続けてください。そして、同時代との齟齬を大切にしてください」

材料、消費財、駒として扱われることの苦しみから抜け出すために何すべきか。そのヒントがこの言葉にある気がする。

 

2014年4月25日 (金)

「少子化という現象は、人が都市で消費された結果だと」 

「労働」についての言葉が目についたので、それらを並べてみたい。

社会学者の山下祐介さん。『里山資本主義』の著者・藻谷浩介さんとの対談で、次のように述べている。『しなやかな日本列島のつくりかた』から。

「今、特に都会で働いている人たちは、人生の多くが『暮らし』ではなく『労働』になっています。その労働というのも、昔は生活と直結するものだったのが、今はなんのために働いていて、誰にその糧が回っているのかよく分からない。がむしゃらに働き、ご飯は外食、結構な家賃と光熱費を払いながら、家に帰ったら寝るだけ。もともとは普通に暮らしていくためにやっていたはずのことが、いつのまにか、もっと大きなシステムの中の一部分に組み込まれてしまっているのです」 (P53)

いつのまにか、「暮らし」が犠牲になり、「労働」が中心となってしまっている。その「労働」も大きなシステムの中で、何のために働いているのかが分からなくなっている、という指摘である。

社会学者の濱野智史さんも、朝日新聞(4月24日)で「労働」について次のように書いている。

「効率性だけが追求される資本制社会では、多くの人々は、食いつなぐだけの『労働』にしか従事できず、後世に残る『仕事』には関われない。だから疎外感を味わう」

こうした状況について、藻谷浩介さんも、次のように語る。『しなやかな日本列島のつくりかた』から。

「『復興は人の暮らしのため』、『経済成長はあなたが生きていくため』というけれど、あなたが生きていくために、あなたの暮らしを犠牲にしましょうって、それは話がおかしいですよね。『生きるために経済成長しましょう』と言っているうちに、成長の方がいつのまにか目的になって、『経済成長のために生きよう』という主客転倒を起こしているのです」 (P58)


経済や成長、すなわちお金のために「暮らし」が犠牲になっている。

この
復興については、山下祐介さんは、著書『東北発の震災論』で次のように書いている。

「『復興』を進める事業のためには、人の暮らしはどうなっても構わないという力学が生まれているようだ」 (P269)

この山下さんの言葉の「復興」を、そのまま「労働」に置き換えても成り立つ。

さらに藻谷浩介さんの次の指摘は、非常に興味深い。『しなやかな日本列島のつくりかた』から。

「山下さんの本の中に、都会のそうした構造を、ズバリ一言で表した一文がありました。これです。『(農村部から)あふれた人口は都市に向かい、そこで消費される』。労働の中で消費されてしまって、子孫を残さずに消える。少子化という現象は、人が都市で消費された結果だと」 (P55)

「二十世紀の後半の日本は、戦争前後に大量に生まれた若者を、東京や大阪などの大都市に集めて、国際競争に動員した。その過程で経済成長と呼ばれる現象も起きたんですが、彼らは結局『消費された』、即ち『再生産されなかった』のです」 (P55)

結局、われわれの社会は、経済成長のもと、労働力として「人」を消費してきたということなのである。消費財として「使い捨て」しまったがため、サイクルが成り立たず、その結果としての「少子化」が進んだということなのである。

これは、けっこう恐ろしい指摘だと思う。

アメリカの政治学者のC.ダグラス.ラシスさんの指摘とも重なる。著書『経済成長がなければ私たちは豊になれないのだろうか』から。

「『
人材』という言葉は、本当は恐ろしい言葉であって、これからの社会では自分が『人材』だと言われたら怒るような、侮辱的な言葉と考えるべきだと思うのです。私は材料じゃない、人間です、と答える人が増えるようになったらいいと思う。人が人材になるということは、人間を生産の手段にするということです」 (P150)

消費財や材料としてでなく、暮らしを営む「人」としての役割を社会が取り戻すことが何よりも重要なんだと思える。 

 

 

 

 

 

 

 

 

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